『段差のある敷地ですが、家を計画できますか?』そんなメールの問い合わせが、T設計室に入ったことから始まりました。

当時、敷地は取り壊された後、数年経って草が生えていましたが、敷地を眺めると、以前住んでいた方がどのように生活していたか、探偵のシャーロックホームズが推理するのと同じように見えてくるものです。





段差のある土地であるがゆえに、高低差と道の付き方で車の出入りは決まっていました。南側には二階建ての住宅があることから、駐車場となる部分以外の敷地に家を建てると仮想すると、南側のお隣を避けて建つ事になるので、ある程度冬の日差しが入るのか分かります。いい具合です。敷地をみならが生活を組立ていくのは、少なからず建築設計者としての経験と直感が必要です。また二階をリビングとして住まうと、「北側に富士山が見えるのではないか」という予感もありました。今、完成した家の窓は毎日壮大な富士山が見えるピクチャーウィンドウになっています。

つまらない事のようですが大事なことの一つに、ゴミの集積場の位置があります。ゴミの集積場の方向を意識しないで玄関の位置を計画すると、毎週二回、年中ゴミを持って遠周りをしている生活者を見ることになります。



住宅を計画するとき、真っ白い紙に思い通りに間取りを描けそうですが、家を新築してもお隣の住まいや住人の方はもれなく付いてくるので、お隣の状況や方位、道の位置などを頭にいれて家を計画します。

お年寄りがいるのか、小さな子供がいるのか、昼に在宅の方か、お勤めの方か、お隣の間取りが生活に影響があるのかどうか。そんな事が分かるのか、と思うかもしれませんがレンジフードや窓の大きさ、形を見ると判断ができます。

レンジフードがあればそこには台所があり、お隣のレンジフードの位置に窓を付けてしまうと、お隣の夕食の匂いが気になることもあります。特に小さな子供がいればカレーライスなど強い匂いは分かりますから窓を開けて生活するときの注意点です。また建物の西側や東側に大きな出窓や掃き出しの窓があると台所と食堂がある事が想像できます。シニアの方が居ると、大きな音でテレビを見ますのでこれも注意です。



二階のリビングに住む家は、間取りに工夫が必要です。階段の下は奥行を利用し両側から使うことで収納能力を上げてあげます。通常広い部屋をつくると壁が少なくなるため収納部分が意外と大きく取れないんです。また家の中にぐるぐる回れるところがあると、家が広く使えます。玄関から続く土間は、通常の玄関と日常の玄関が区別され靴が片づくポイントにもなります。

各間仕切りは引き込戸にし、扉が壁の中に入ることによって一つの繋がった大きな部屋としても使えます。また屋根の形で部屋の天井をつくることで船底天井(船を逆にしたような形になっているからそう呼ぶらしい)となり自動的に変化のある天井をもつ大きなリビングがつくれます。一階に間仕切りを多くし、二階の間仕切りを少なくしたのも耐震的に合理的です。



家をつくる時には大変な労力が要りますから、施工中の写真を見ただけでその家づくりが思い返されます。敷地を見て『どのように家が建つのだろう。』と考えたこと。神主さんが来て家族で地鎮祭を行ったこと。家の間取りや模型ができてきて皆でワクワクしたこと。基礎が立ち無垢の木材が運ばれ、上棟した骨だけの家の中から見た初めての風景。家がどんどんできてきて、何度となく工事中の家で打ち合わせをして現物のサンプルから家の色などを確認をしたこと。住み始める前に施主さん達と一緒にワックスを掛けたこと。そうそう伐採見学に行って奥さんが伐採したヒノキの木は、ダイニングテーブルの足に使われています。



 家が完成し二年が経ちましたが、見えない部分ですが床下の換気扇の掃除もしました。
『新建材の家は建って引き渡した時が最高の瞬間でそれから家は朽ちてくる。』『無垢の家は建ってから、使い始めて十年経つと、木は日に焼けて、色が落ち着いてそれからどんどん良くなる。』と大工が教えてくれました。これからが楽しみです。